
シェルピンスキーの三角形は何次元か。「1.58次元」を自分のコードで実測する
直線は1次元、平面は2次元。次元とは整数である——と、特に疑ったことがなかった。でもフラクタルの世界には「1.58次元」のような中途半端な次元を持つ図形が存在するという。有名なシェルピンスキーの三角形だ。
次元が整数でないとはどういうことか。そして、その「1.58」は本当に測れるのか。理屈を読むだけでは腑に落ちなかったので、生成から測定まで全部自分のコードでやってみた。
カオスゲーム: サイコロを振るだけで三角形が生まれる
シェルピンスキーの三角形の生成法として、一番不思議なのが「カオスゲーム」だ。ルールはこれだけ。
- 三角形の頂点を3つ決める
- 適当な点から出発する
- サイコロで頂点をランダムに1つ選び、今の点とその頂点の中点に移動して、点を打つ
- 3を延々繰り返す
完全にランダムな手続きなのに、点を打ち続けるとこうなる。

200万点打った。乱数で動き回っているだけの点が、なぜか整然とした入れ子模様を描く。どの点も「穴」の領域には決して入れない(中点移動というルールが、穴に入る軌道を持たない)ためで、ランダムさは模様を壊すのではなく、模様の上をまんべんなく訪れるための手段になっている。
できあがった三角形は、どこまで拡大しても同じ模様が現れる。

box-counting: 次元を「測る」方法
次元を測るとはどういうことか。box-counting法の考え方はシンプルで、図形を大きさのマス目で覆ったとき、図形がかかるマスの数がどう増えるかを見る。
- 直線: マスを半分にすると、かかるマスは2倍になる → → 1次元
- 塗りつぶした正方形: マスを半分にすると4倍 → → 2次元
- つまり の指数が次元の正体だ
log-logプロットの傾きとしてを実測できる。シェルピンスキーの三角形は「半分のスケールにすると自分のコピーが3個」なので、理論値はになるはずだ。
検証のため、答えの分かっている図形(直線・塗りつぶし正方形)と、別のフラクタル(コッホ曲線、理論値)も一緒に測った。

結果: 1.568 (理論値1.585)
4×4から256×256までのマス目で数え上げ、log-logプロットの傾きを最小二乗で求めた。

| 図形 | 実測 | 理論 | 誤差 |
|---|---|---|---|
| 直線 | 0.970 | 1.000 | 0.030 |
| 塗りつぶし正方形 | 1.939 | 2.000 | 0.061 |
| コッホ曲線 | 1.255 | 1.262 | 0.007 |
| シェルピンスキー | 1.568 | 1.585 | 0.017 |
シェルピンスキーの三角形は、確かに1と2の間にいた。マス目を細かくしていくと、直線より速く、平面より遅くマスが増えていく。「線で描かれているのに、線よりは平面寄りの埋まり方をする」という中間的な存在であることが、傾きという形でそのまま数字になる。
どの実測値も理論よりわずかに小さいのは正直に書いておく。点の数もマス目の細かさも有限なので、細かいスケールでは図形の「隙間」を拾いきれずにマスの増え方が鈍るためだ。box-countingは、どのスケール範囲で傾きを取るかで値が動く——「次元を測る」という行為自体が、思ったよりも測定条件と交渉する作業だった。
手を動かして意外だったこと
一番不思議だったのはやはりカオスゲームだ。決定的な設計図なしに、ランダムな反復だけで恐ろしく規則的な構造が生まれる。「ランダム=無秩序」という直感は、ルール付きのランダムには通用しない。ランダムさはむしろ、アトラクタ(この場合は三角形)の全体を偏りなく塗るための、優秀な絵筆として働いていた。
そして「次元が測れる」こと自体の面白さ。次元とは部屋の縦横高さのような所与のものではなく、スケールを変えたときに情報量がどう増えるかという応答特性だった。そう捉え直すと、海岸線の長さが測る物差しの細かさで変わる話(海岸線パラドックス)も、同じ現象の別の顔だと分かる。複雑さは「量」ではなく「スケーリングの仕方」に宿る。
仕事の複雑さも似たところがある。遠目には単純に見えるのに、ズームするたびに同じ密度でタスクが湧いてくるプロジェクトがある。あれはたぶん1次元の仕事ではなくて、1.5次元くらいの仕事なのだ。どこまで拡大しても構造が尽きないものに対しては、「全部数え上げてから着手する」戦略は原理的に破綻する。スケーリングの指数を見積もって、どの解像度で切り上げるかを決める方が正しい。
まとめ
- カオスゲーム(頂点をランダムに選んで中点へ移動)を200万回繰り返すと、シェルピンスキーの三角形が浮かび上がる——ランダムな手続きが決定的な模様を描く
- box-counting法(マス目を細かくしたときの占有マス数の増え方)で次元を実測: シェルピンスキー1.568(理論1.585)、コッホ曲線1.255(理論1.262)、検証用の直線0.970・正方形1.939
- 次元とは「スケールを半分にしたとき情報量が何倍になるか」の指数であり、整数である必然性はない
- 実測値は理論よりわずかに小さく出る(有限の点数・解像度の限界)。次元測定はスケール範囲の選び方と切り離せない


