3つの国の国境が、どこを取っても3か国すべてに接している。ニュートン法の吸引域で「和田の湖」を実測した
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3つの国の国境が、どこを取っても3か国すべてに接している。ニュートン法の吸引域で「和田の湖」を実測した


z31=0z^3 - 1 = 0 の解は3つある。11 と、複素平面上でそれを120度ずつ回した2点だ。

ニュートン法でこの方程式を解くとき、どの解にたどり着くかは初期値で決まる。11 の近くから始めれば 11 に、他の根の近くから始めればその根に。では平面上のすべての点について、行き着く先を色分けしたらどうなるか。

素直に考えれば、平面が3等分されて、120度ずつの扇形になりそうだ。実際にはそうならない。

実験に使ったコードの全文はGitHubに置いています

行き先で色分けする

2048×20482048 \times 2048 の各画素を初期値として、ニュートン法を60回まわす。

左は複素平面を3色で塗り分けた図。3つの根のまわりに大きな領域があるが、境界は直線ではなく、丸い突起が数珠のように連なった複雑な形をしている。突起の中にはさらに3色が入り込んでいる。右はその一部を拡大した図で、まったく同じ構造が繰り返し現れている

扇形にはならなかった。境界には丸い突起が数珠のように並び、その突起の内側にまた3色が入り込んでいる。

拡大していくと、この入れ子が終わらない。

ニュートン法の吸引域を連続的に拡大していくアニメーション。倍率が上がるにつれて、境界の突起の中にさらに同じ形の突起が現れ、それが延々と続く。左上に倍率が表示される

境界のフラクタル次元をマンデルブロ集合の回と同じbox-countingで測ると、1.438(同じコードで円を測ると1.019なので、その系統誤差を補正した値)。直線でもなければ平面でもない、その間の値になる。

高さを「収束までの反復回数」にすると、境界が谷底の裂け目として見える。

国境は、どこを取っても3か国に接している

ここからが本題だ。この境界には和田の湖(Lakes of Wada)という性質があるとされる。

普通の地図では、3つの国の境界線を歩くと、たいていは2か国の間を歩いている。3か国が同時に接するのは、三国国境点という特別な1点だけだ。

ニュートン法の吸引域では、そうならない。境界上のどの点を取っても、その点は3つの領域すべてに接している。

言葉で言われても信じにくいので、測った。各境界画素について、半径 rr 画素の窓の中に何色が現れるかを数える。

折れ線グラフ。横軸が境界画素のまわりを見る半径(1、2、4画素)、縦軸が3つの領域すべてが見えた境界画素の割合。解像度512、1024、2048の3本の線がほぼ重なっていて、半径1で約72%、半径2で約98%、半径4でほぼ100%に達する。下方に「対照:ふつうに3等分した境界 0.72%」の破線がある

半径512×5121024×10242048×2048
1画素73.84%72.41%72.32%
2画素98.34%97.90%97.57%
4画素100.00%99.99%99.99%

半径2画素の窓で、境界画素の97.57%が3色すべてに接している。

大事なのは、解像度を4倍にしても値がほとんど変わらないことだ(73.84% → 72.32%)。もしこれが「解像度が粗いから複数の色が混ざって見えている」だけなら、細かく描くほど割合は下がるはずだ。下がらないということは、いくら拡大しても3色が接し続けている。

対照として、平面をふつうに3等分した(120度ずつの扇形)境界で同じことを測ると、0.72%だった。三国国境点の周辺だけが該当する。100倍以上の差がある。

根を増やす、収束させない

根の数を5つにしても、同じ構造が現れる。

左はz⁵−1=0の吸引域を5色で塗り分けた図で、5つの領域が花びらのように配置され、境界には同じような入れ子構造がある。右はz³−2z+2の吸引域で、青・橙・緑の領域のあいだに、200回まわしても収束しなかった赤い領域が斑点状に散らばっている

z51z^5-1 の境界次元は1.701。根が増えるほど境界は込み入る。

右は z32z+2z^3 - 2z + 2 で、こちらにはニュートン法が収束しない初期値がある。この式では反復が周期2の軌道に捕まってしまう領域が存在し、200回まわしても1.056%の画素がどの根にもたどり着かなかった。

ニュートン法は「速く収束する」ことで知られる手法だが、それは十分に近い初期値から始めた場合の話だ。遠くから始めれば、そもそも収束しないこともある。

まとめ

  • z31z^3-1 の吸引域は扇形にならず、境界のフラクタル次元は1.438
  • 境界画素の97.57%が半径2画素の窓で3つの領域すべてに接している(和田の湖の性質)
  • 解像度を512から2048へ4倍にしても値は72〜74%で変わらない。解像度のせいではない
  • ふつうに3等分した境界で同じ測定をすると0.72%
  • z51z^5-1 の境界次元は1.701。z32z+2z^3-2z+2 では200回まわしても1.056%が収束しない

「どの国境の点も3か国に接している」という主張は、地図の常識と真っ向からぶつかる。2か国の間を歩いていて、あるとき三国国境点を通過する——それが普通の境界だ。ここではその「あるとき」が、境界のすべての点で起きている。

測ってみて腑に落ちたのは、これが境界に幅がないから成立しているということだった。3色が接するには3色が同時に見える必要があるが、境界に厚みがあれば、その厚みの中は「どちらか一方」で埋まってしまう。厚みがゼロで、しかも無限に入り組んでいるからこそ、どこを取っても3色が届く。

そしてこれは、私が普段「境界」という言葉で思い浮かべているものが、かなり特殊な場合だという話でもある。線で区切られた地図のような境界は、境界の中では例外的にきれいなほうだ。

分類の境目にいるデータ点を「どちらとも言えない」と扱うことがある。だがニュートン法の境界を見たあとだと、その言い方は少し楽観的に思える。境目にいるということは、2つの候補の間にいるのではなく、全部の候補に同時に接しているのかもしれない。