忘れることは、本当に悪いことなのか
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忘れることは、本当に悪いことなのか


以前、月ごとにテーマを決めて本を読んでいた時期があった。

その月のテーマは「記憶」だった。

記憶力を上げる方法とか、効率よく暗記する方法とか、そういう本を何冊か読んでいた。

当時の僕は、当然のように「覚えていることは良いこと」「忘れることは悪いこと」だと思っていた。

勉強した内容を忘れれば、自分の記憶力のなさにがっかりする。

昨日読んだ本の内容を思い出せなければ、せっかく読んだのに意味がなかったんじゃないかと思う。

だから、どうすれば忘れないのかを知りたかった。

でも記憶についての本を何冊も読んでいるうちに、ふと思った。

逆に、忘れることってどういうことなんだろう。

人間はなぜ忘れるのか。

本当に記憶力が良ければ良いほど、人間にとって都合がいいのだろうか。

そこで読んだのが『忘却の効用』という本だった。

忘れることは脳の失敗ではない

この本を読むまで、僕は忘却をかなりネガティブに捉えていた。

覚えられなかった。

思い出せなかった。

つまり、自分の脳の性能が足りない。

かなり単純にそう考えていた。

でも『忘却の効用』では、健常な忘却は単なる脳の衰えではなく、人間に必要な機能として描かれている。

例えば、強い怒りを感じた出来事があったとする。

その瞬間は絶対に許せないと思っていても、数日、数週間と経つと、その感情は少しずつ薄れていく。

もちろん出来事そのものを完全に忘れるわけではない。

でも、感情の強度は変わっていく。

もし人間が、怒りを感じた瞬間の感情を、その強さのままずっと保持し続ける生き物だったらどうなるんだろう。

たぶん、まともに社会生活を送るのはかなり難しい。

僕はこの話が結構印象に残った。

忘れるというのは、情報が抜け落ちるだけの現象ではない。

人間が社会の中で生きていくための機能でもある。

そう考えると「忘れる」という言葉の見え方が少し変わった。

全部覚えていることが、本当に優秀なのか

写真のように物事を記憶できる人の話も印象に残っている。

一度見たものを細部まで記憶できる。

一見すると、とんでもない能力に思える。

僕も昔なら単純に羨ましいと思っていたと思う。

でも、細部が見えすぎることによって、逆に抽象化が難しくなる可能性がある。

これはかなり面白かった。

僕たちは複数のものを見て、「だいたい同じもの」としてまとめて考える。

細かい違いを無視する。

ある意味では、情報を捨てている。

でも、この情報を捨てるという行為があるからこそ、共通点を見つけたり、別の物事と結びつけたりできる。

全部を正確に覚えることと、頭が良いことは同じではない。

むしろ忘れるからこそ、考えられることもある。

a simple illustration of a person calmly releasing scattered pieces of memory like leaves or paper fragments drifting away into the air, representing accepting forgetting rather than fighting it, flat minimalist monotone style

忘れることを前提に勉強する

この本を読んだからといって、僕の記憶力が劇的に良くなったわけではない。

相変わらず忘れる。

本を読んでも内容を忘れるし、勉強したことも時間が経てばかなり抜ける。

でも、忘れることに対する考え方はかなり変わった。

以前は忘れるたびに、

「また忘れた」

と思っていた。

今は、

「まあ、忘れるよね」

と思う。

別に諦めたわけではない。

人間は忘れるということを、前提として考えるようになった。

忘れるなら復習すればいい。

全部を覚えられないなら、本当に重要な部分を残せばいい。

一度で覚えようとする必要もない。

忘れるという現象をネガティブに捉えるのではなく、少しメタ的に認識する。

それだけで、勉強の仕方も少し変わったと思う。

「覚える方法」を探していたはずなのに

面白いことに、僕は記憶力を良くしたくて本を読み始めた。

どうすれば忘れないのかを知りたかった。

でも最終的に印象に残ったのは、

人間にとって、忘れることも必要なのだ

という話だった。

記憶力を上げる方法を探していたはずなのに、忘れることを肯定する本に一番影響を受けた。

こういう、最初に知りたかったこととは少し違う場所にたどり着くことがあるから、本を読むのは面白い。

今でも僕は、覚えたことを忘れる。

たぶん今日勉強したことも、そのうちかなり忘れる。

でも以前ほど、それを悪いことだとは思っていない。

忘れることは脳の失敗ではない。

忘れるからこそ、次に進めることもある。

そう思えるようになっただけでも、この本を読んだ意味は十分にあったと思う。